動物がんクリニック東京

軟部組織肉腫の犬の1例

動物がんクリニック東京  池田雄太

はじめに

 犬の四肢に発生する腫瘍として、軟部組織肉腫は比較的発生率が高い。挙動として、遠隔転移率は低いが、局所の再発率が比較的高いという性質を持つ。また通常は緩徐に進行し長期間で巨大な腫瘤を形成することもある。今回前肢の肘関節領域に発生した軟部組織肉腫に対しヒダ皮弁を実施し完全切除を得た症例を報告する。

症例

柴犬 去勢オス 11歳 他院にて左前肢の肘関節皮下に腫瘤が確認され、諸検査の結果軟部組織肉腫と診断された。治療は断脚しかないと言われたが、その他の手術方法や治療方法がないかセカンドオピニオンを目的に受診された。 既往歴:特になし

体重14.3kg 体温38.5℃ 心拍数120回/分 呼吸数30回/分 一般状態   :良好 一般身体検査 :特記すべき異常所見なし レントゲン検査:特記すべき異常所見なし 血液検査:特記すべき異常所見なし

診断

軟部組織肉腫

治療

 第6病日、手術を実施した。腫瘍からのマージンは1.5㎝に設定した。皮膚閉鎖のための形成外科として腋窩の皮膚を利用した「ヒダ皮弁」を計画したため腋窩を含む広範囲の剃毛を実施した。術中・術後ともに状態は安定しており、手術当日に日帰りとなった。 ※術中および術後抜糸時の写真を下記に掲載

治療画像1

治療画像1

治療画像1

治療画像1

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治療画像1

治療画像1

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病理診断

軟部組織肉腫(血管周囲壁腫瘍)グレード1 完全切除

考察

 軟部組織肉腫は組織学的グレードにより、1、2、3の分類があり、3が最も高悪性度である。3の場合は遠隔転移率は約40%と高いが1、2の場合は7~15%とそれほど高くはない。また局所再発率が高い傾向があり、3の場合は辺縁切除だと80%再発するという報告もある。しかし1、2の場合は辺縁切除でも10%しか再発しなかったという報告もある。  グレード3の場合や疼痛、跛行などの症状が重度の場合には患肢を断脚する場合もあるが、今回のように適切な皮弁などの「形成外科」を実施することにより断脚を回避できることも多く、その判断は外科医により異なるため、様々な病院の獣医師にセカンドオピニオンを求めることも良い方法であると考えられる。