動物がんクリニック東京

猫の小腸腺癌の1例

動物がんクリニック東京  池田雄太

はじめに

 猫の小腸腺癌は腸腫瘍の約1/3を占め、リンパ腫に次いで2番目に多い悪性腫瘍である。主な症状には嘔吐、下痢、食欲不振や貧血がある。また転移率は高く50~70%で所属リンパ節や肝臓、肺、腹膜に転移が認められ、根治は困難な腫瘍の一つである。今回慢性嘔吐と吐糞を主訴に受診した小腸腺癌の猫に対して腸切除端側吻合を実施し良好に経過している症例を報告する。

症例

猫 Mix 6歳9か月 オス去勢済み 主訴:慢性嘔吐と吐糞を主訴にかかりつけ医院で検査を実施したところ、消化管の重度うっ滞が認められ、小腸の一部で腸壁の肥厚と狭窄があり、小腸腫瘤による腸閉塞と診断された。治療を目的に当院を紹介受診された。

既往歴:慢性腸症

体重4.0kg(BCS3/5) 体温39.6℃ 心拍数180回/分 呼吸数30回/分 一般状態   :活動性10% 食欲30% 意識レベル 正常 一般身体検査 :脱水5% 体表リンパ節腫大なし 腹部X腺検査:腹部中央に重度に拡張した小腸が認められる。(図1) 腹部超音波検査:小腸遠位部に腸壁の全周性肥厚病変が認められる。それより近位では腸内容物が充満し拡張している。

診断

・腸管腫瘤による腸閉塞(腫瘍や炎症うたがい)

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図1 腹部X線(赤線で示す部位が拡張した小腸)

治療

 第1病日、腸閉塞のため緊急手術が必要と判断し、診断治療を含めた開腹術を実施した。術中所見:腹部正中切開を実施、胃から大腸を探索した。小腸遠位部の回腸に病変が認められた。病変部近位では小腸が重度に拡張し中に流動状の内容物が堆積していることが確認できた。(図2)腫瘤から5cmマージンを確保し、腸切除を実施した。(図3)近位側と遠位側で腸の口径が大きく違い通常の端々吻合は適応できないため、近位側は盲端とし、近位側の側面に6mmのトレパンパンチを用いて小孔を形成し、遠位側の空腸と端側吻合を実施した。(図4)吻合部位は大網パッチを行い、腹腔洗浄を実施、空腸リンパ節の生検を行い常法通り閉腹した。術後経過は良好であり、嘔吐は消失し発熱も改善した。第5病日に退院し、第15病日抜糸した。

病理診断

腸腺癌 リンパ節転移なし

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図2 拡張した小腸の外貌 狭窄部位から近位が拡張している

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図3 病変部を切除し、近位側を盲端とした

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図4 近位側に小孔を形成し遠位側と端側吻合した

考察

 猫の小腸腺癌は外科切除をした方が予後が良いことが報告されており、切除した群で生存期間365日、切除しなかった群で約1か月というデータがある。また切除時に転移をしていない場合850日、転移がある場合は350日ということが報告されている。 外科マージンについては4~5cmを確保することが推奨されており、本症例でも5cmを確保することで完全切除が得られている。本症例では狭窄していた期間が長く重度の腸拡張が認められたことから、通常の端々吻合では吻合部の径がずれるため、端側吻合を適応した。口径の違いを矯正して吻合径を合わせて端々吻合する方法では吻合部の縫合数が多くなり血流障害が起こる場合があり術後の癒合不全を発症する可能性がある。一方で端側吻合では吻合部の良好な血流が得られることから本症例のように腸断端の口径が大きく違う場合には有効な方法であることが示唆された。