動物がんクリニック東京

多中心型リンパ腫の犬の1例

動物がんクリニック東京  池田雄太

はじめに

 多中心型リンパ腫は犬の造血器系腫瘍の中で最も多い腫瘍である。びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)は多中心型リンパ腫の60~70%を占める最も多いタイプで、犬のリンパ腫といえば、多くがこのタイプだと言っても過言ではない。今回、DLBCLの犬の1例を報告する。

症例

フレンチブルドッグ 8歳 メス 主訴:頸部の腫脹と呼吸が苦しそう  既往歴:アトピー性皮膚炎、乾性角結膜炎

体重9kg 体温39.8℃ 心拍数180回/分 呼吸数パンティング 一般状態   :活動性50% 意識レベル 正常 食欲30%  呼吸状態   :吸気時の努力呼吸(ストライダー) 一般身体検査 :体表リンパ節全て腫大 下顎リンパ4㎝ 浅頚リンパ節4㎝ 膝窩リンパ節3cm レントゲン検査:特記すべき異常所見なし 血液検査:血液塗抹上に大型のリンパ球散見される リンパ節FNA:下図参照 大型のリンパ球が全体の80%以上を占める。これらの細胞の大きさは好中球よりも大型であり、核は円形、単一の明瞭な核小体を持つ。核クロマチン微細であり、細胞質は好塩基性である。核分裂像は高頻度に認められる。 腹部超音波検査:腹腔内リンパ節は複数腫大しており、脾臓にはびまん性の低エコー結節が認められる。 リンパ球クローナリテイ検査:Bリンパ球のモノクローナル増殖を確認

診断

・びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(WHO分類では) ・高グレードB細胞性リンパ腫(新キール分類では) ステージ5b

治療

 第1病日より、リンパ腫の治療を開始した。入院点滴を行い、十分な水和を得たのち、第2病日にLアスパラギナーゼを投与した。第3,4病日、血液検査においてカリウム値やリンの上昇が認められ、腫瘍溶解症候群と判断したが、その後数値は低下し一般状態も安定していたため、入院3日目に退院した。  その後第7病日にビンクリスチンを投与、第17病日には完全寛解を達成した。その後CHOPプロトコルを継続し、第25週終了した後は、化学療法は休薬し1か月ごとの検診を行っている。現在化学療法中止後3ヶ月が経過し、完全寛解を維持している。

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考察

 多中心型リンパ腫の治療は全身治療である化学療法が主体である。リンパ腫は化学療法に感受性が高く、初回の治療時に急速に腫瘍が縮小する。この際に溶解した腫瘍組織から、リン、尿酸、カリウムなどが放出され、体液の電解質バランスなどに異常をきたす「腫瘍溶解症候群」が発症することがある。特にこの症候群は進行したステージである5の段階で発症することが多いとされ、本症例でもステージ5bであったことから、化学療法開始にあたり、入院点滴を行った。腫瘍溶解症候群では、急性腎障害や肺血栓塞栓症などが報告されており、重篤な状態となるために入念な予防管理が必須である。