動物がんクリニック東京

猫の消化器型リンパ腫(LGLリンパ腫)の1例

動物がんクリニック東京  池田雄太

はじめに

 猫の消化管に発生する腫瘍ではリンパ腫が最も多く約50%を占める。猫の消化器型リンパ腫は大細胞性と小細胞性に分類されるが、特殊なタイプとして大顆粒リンパ球性リンパ腫(LGLリンパ腫)がある。LGLリンパ腫は小腸や腹腔内リンパ節に発生することが多く、食欲不振や嘔吐、下痢など重度の症状を呈し、急速に進行し、予後の悪い腫瘍であることが報告されている。今回小腸に発生したLGLリンパ腫で良好に経過している猫の1例を報告する。

症例

猫 Mix 7歳 オス去勢済み 主訴:食欲不振を主訴に近医を受診、諸検査にて腹腔内腫瘤が認められた。腫瘤の細胞診でLGLリンパ腫と診断され、セカンドオピニオンを求めて当院を受診した。 既往歴:慢性腎臓病

体重3.24kg(BCS2/5) 体温36.0℃ 心拍数150回/分 呼吸数30回/分 一般状態   :活動性75% 食欲50% 意識レベル 正常 一般身体検査 :腹部中央に腫瘤が触知できる。 腹部超音波検査:空腸に腫瘤を認める。腸壁は肥厚(2.1×1.6㎝)し、5層構造は消失する。空腸リンパ節は腫大し、周囲脂肪の高エコー化が認められる。(図1,2) 腸腫瘤細胞診 :大型のリンパ球が認められる。細胞質には少数の顆粒が認められる細胞もあり、小型リンパ球はほとんど確認できない。(図3)

診断

・LGLリンパ腫

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図1 腸腫瘤

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図2 空腸リンパ節

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図3 腸腫瘤細胞診

治療

 第1病日よりプレドニゾロンを1.5㎎/㎏/日で開始した。第6病日から化学療法(抗がん剤)をスタートし入院管理下でLアスパラギナーゼを投与した。第9病日、腫瘍崩壊症候群は認められず状態安定のため退院した。その後Lアスパラギナーゼを週1回投与継続し、食欲改善、下痢や嘔吐は認められず、腸腫瘤と空腸リンパ節は縮小した。(図4)また化学療法開始後3ヶ月で腫瘤と、空腸リンパ節はほぼ所見となった。(図5) 現在Lアスパラギナーゼを2週間毎に投与し7ヵ月であり、良好に経過している。

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図4 治療開始後3ヶ月 腸腫瘤

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図5 治療開始後3ヶ月 空腸リンパ節

考察

 猫のLGLリンパ腫は予後が非常に厳しいことで知られており、最大容量の化学療法を実施した場合でも生存期間中央値(MST)が約2か月という報告がある。また比較的最近の報告でロムスチン単独またはLアスパラギナーゼを併用した、9例の報告でもMSTが129日という厳しい結果が報告されている。Lアスパラギナーゼは犬の多中心型リンパ腫をはじめ犬や猫の様々なリンパ腫に対して汎用される抗がん剤であり、特徴として骨髄抑制や消化器毒性などの一般的副作用が極めて少ないという利点がある。特に消化器型リンパ腫の場合は犬でも猫でも元々下痢や嘔吐などの消化器症状が重度で受診されることが多く、消化器毒性の認められる化学療法剤は使用しにくい場合があり、筆者は状況に応じてLアスパラギナーゼを単独で使用することがある。本症例ではLアスパラギナーゼの反応が良好であり、現在7ヵ月が経過するが腫瘤は縮小を維持できており、体重も安定し、非常に良好に経過している。また現在複数の猫の消化器型リンパ腫大細胞性の症例で同様にLアスパラギナーゼの単独投与を実施しているが、ほぼ全例で良好な経過を示していることから、猫の消化器型リンパ腫大細胞性やLGLリンパ腫に対してLアスパラギナーゼを連続投与する方法は有効で負担の少ない治療となる可能性が示唆される。今後も他の治療方法と比較して検討していく必要がある。