動物がんクリニック東京

胃平滑筋腫の犬の1例

動物がんクリニック東京  池田雄太

はじめに

 胃平滑筋腫は胃の粘膜下で筋層という部位に発生する良性腫瘍である。良性ではあるが、胃の中での発生部位や大きさにより、食欲減退、嘔吐などの症状をしめす。今回慢性嘔吐が認められた胃平滑筋腫の犬において、筋腫のくり抜き手術を実施し2年以上再発がなく良好に経過している1例を報告する。

症例

犬 チワワ 9歳 メス  主訴:定期的な嘔吐がありかかりつけ医院での超音波検査で胃腫瘤が認められた。その後二次診療施設で細胞診をしたが、有意な細胞が採取されなかった。

既往歴:特になし

体重2.7kg(BCS3/5) 体温38.8℃ 心拍数120回/分 呼吸数30回/分 一般状態   :活動性100% 食欲100% 意識レベル 正常 一般身体検査 :特記すべき異常所見なし

胸部X線検査:特記すべき異常所見なし 腹部超音波検査:胃幽門洞の尾側胃壁に2.5㎝の球形腫瘤を認める。腫瘤は内部低エコー性で筋層に位置し、胃内腔を圧排している。周囲リンパ節の腫大なし。その他 胆泥軽度貯留

鑑別診断

#1,平滑筋腫 #2,GIST #3,胃腺癌 など

プラン CT撮影を実施し外科適応の判断を行う

治療

CTにて腫瘤は胃壁に存在し、胃粘膜面は正常な形態を保っていることが確認された。また周囲リンパ節の腫大はなく、腫瘤と正常組織の境界も明瞭であった。(図1)以上の所見から第1に胃平滑筋腫をうたがい、手術計画を立てた。第6病日 手術を実施した。腹部正中切開にて胃を露出すると、胃の幽門洞付近に硬い腫瘤が確認された。漿膜面は正常に認められたことから、腫瘤のくり抜き手術を実施した。漿膜面に切開を加え、筋層に位置する硬い腫瘤を周囲正常組織から剥離し摘出した。腫瘤は内部で2個に分離しており肉眼的に全て摘出した。(図2、3) 経過は良好であり術後3日目に退院した。術前に認められた定期的な嘔吐は消失し体重も増加した。現在手術から2年が経過するが、超音波検査で再発を認めず良好に経過している。

病理診断

胃平滑筋腫

画像1
図1 造影CT画像 胃腫瘤が認められる、粘膜面は正常である(赤点線)

画像2
図2 胃の漿膜面を切開し、内部の筋腫を摘出している

画像3
図3 摘出した筋腫 2個に分かれている

考察

 日本人では胃がんは死因の第3位であるように、非常に多く認められるが、犬や猫で胃がんは稀であり、全腫瘍の中の1%未満である。胃平滑筋腫は胃に認められる良性腫瘍の代表であり、初期は無症状であるが大型になり、発生部位が幽門の近くで通過障害がおこると、嘔吐や食欲低下を認める。治療方法は手術であり、良性であるため広範囲切除は必須ではない。超音波検査やCTにおいて発生部位が筋層であり、粘膜と漿膜が良好に保たれている場合には平滑筋腫の可能性が高くなるため、当院では核手術(くり抜き術)を実施している。しかし、最終判断は術中に行い、胃と腫瘤の触診で周囲組織への浸潤性が強いと判断された場合には、くり抜き術ではなく全層切除に切り替えている。